第29話「童貞を殺すトイレ」

男の名はタイラと言った。
痩身ながらも不思議と最低限の膂力はありそうな体躯に、
肩甲骨辺りまで伸びた髪を後ろで束ねているのがトレードマークである。
顔はどこか中東じみていて、浅黒い。
齢は二十代後半程であろうが、その風格のせいか
年齢相応の日本人男性には見えなかった。

目下働いている職場は、数年前ハローワークで斡旋を受け、就労したものだった。
インターネットで商品を出品する「EC事業」という職種らしいが、近代的な響きとは裏腹に職場は築五十年のボロ家。
鉄骨造りの為、俄然倒壊するような事は無いと思われたが、手すりは錆び、階段は朽ち果て、廃屋と言っても過言ではなかった。
建物の敷地は広く、その内部も広かった。しかし放埓な従業員の仕業か、辺りには商品や作業具など雑多なものが乱雑に置かれ、
部屋の中央は大きな作業台が占有し、人が作業するには余りにも狭隘であった。

その中でもタイラが最も忌避していたのは、清掃を一切しないが故の埃やカビ、匂いであった。
換気の出来るような窓や出口は少なく、五十年前にしつらえたであろうエアコンは当然空気を清浄できず、微風を吐き出すばかりで、
悪辣な環境の中で働く日々もままあったのだった。だが、それ以外に衝撃的な部分もあった。

――時は遡り、数年前。就労して間もなく、案内役の部長に作業場の説明を受けていた彼は驚嘆する事となる。
「ごめんね、トイレは男女共用なんだ」

折りしもその職場には妙齢の女性が数人働いていた。当人の同僚達は、その事実に対して一切の感情を持ち得ていないようであった。
だがしかしタイラは違った。中学の時に同級生の女子の体操着をトイレで穿いていたタイラは違ったのだった。
(なん、だと……ッ?!)
女性が用を足した後に、同じ個室、同じ空間に入り、同じ便座に座り、同じトイレットペーパー、フレーバー……便座に残る太腿から臀部にかけての体温――様々な真実が波のように押し寄せ、彼の頭に白波を立てた。

古い建築物が引き起こした問題だった。建築当時など戦後から十数年しか経過しておらず、あまり重要視されていなかったのだろう。
トイレを男女別で設けられている事が常識であろう現代日本から鑑みると完全な悪習であり
実は労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則、および事務所衛生基準規則に抵触する虞がある事案なのだが、
改修予算が無いのか、はたまた不要と判断されているのか、タイラが入った空間にはアルカイックな景観が眼前に広がっていた。

人間には個体差がある。思惟、常識、性癖。森羅万象全て。――女子の体操着を着てしまった人。男女共用を気にしない人。トイレを改修しない人。
近年、「童貞を殺すセーター」という概念の衣装が立案された。
何が童貞を殺すのかと問われれば、それは恐らくセーターではない。刺激が童貞を殺すのだ。
タイラは童貞だ。埃だらけの職場で働く、誇り高き童貞だ。その高潔さはヴラド・ツェペシュにも負けないつもりだ。

――この日、タイラはトイレに殺された。

どうもこんばんは!新規の告知事項をお持ちしました!

すみません。。。何を告知しようか大半忘れてしまったのですが、覚えてる限りだと

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こちらも続報を掴み次第、後日告知したいと思います。

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